2011年1月アーカイブ

味噌汁

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お袋の味と言って思い出す料理はありますか?

 

ない。ということもあるのかもしれない。

 

私の場合はというと、何かといえば、ある。味噌汁。普通です。私にはお袋がいて、生きている。けれども「お袋が生きている」、ということと「お袋の味」とは密接でなくてもいい。「お袋の味」というのは、味覚に刻まれた記憶としてあればいいもの、だからである。私にとってのお袋という言葉はあったかいものだから、「お袋の味」と言って、あったかい料理を連想してしまうのだと思う。

 

あったかいその料理は、ただあったかいだけである。うまいとかまずいとかではない。あえてどちらかを言うならば、それはうまい。でもそのうまいはあったかいという意味でしかなくて、たとえば今「うまい味噌汁って何?」と言って思い起こすそれと、母親の味噌汁とはまったく違う。

 

どうも人間の役割というのは循環していかなくちゃいけないものらしい。いつのころからか子供が親を保護者ではなく一人の人間としてみるようになるときから、そのあったかさというのは記憶の中に落ち込んでしまう。これは万人に平等にやってくる通過儀礼のようなものだ。そのときに今まで意識していなかった、「あったかさってあるんだ」、ということが忽然と明確になってしまって、「あっ、あの味噌汁はあったかかったんだ」と、もうすでにそれは記憶の奥底のものとなって、それが「お袋の味」が出現する瞬間、なのだろう。あったかさを知ったとき、「お袋の味」もまた意味を持つ。そしてあったかさを知ったときに、あったかさは遠のいてゆく。あったかさを知ったとき、寒さを知る。

 

あったかさは、意識した瞬間に記憶となる、ようなもので、記憶となってずっとそこにある、ものだ。「お袋の味」というのはそういうもので、それだけのものだと思う。

 

これはなんとも皮肉な仕掛けである。これからじっくり味わおう、なんていう隙も与えないのが、あったかさというものなのかもしれない。だからあったかさは、とてもありがたくて、怖いものでもある。あったかさは意識した瞬間に、その外に放り出されてしまうようなもの、なのである。そうなってさて、どうするか。あったかさの外で、寒さで凍え死ぬのか?放り出さないでくれと泣きつくのか?寒さの中で、生きていくのか?勘違いしちゃいけないのは、みんな放り出されている、ということである。自分の寒さは、他人のあったかさではない。

 

あったかさを知ってしまったら、あったかさと手を切るしかないのである。仕方がない。これしかないのである。だから寒さというのは、これは向かうもの、なのである。寒さというのは寒いと思ったら無性に寒くなってしまうようなもので、だからこちらから向かうことでしか対処のしようのないもの、なのである。

 

あったかさは、依然として記憶の中にある。もしどれだけ寒くてもそこにいられるとしたならば、あったかさの記憶があるからである。それがあるから寒さの中に身をおける。本当のあったかさとは、そういうものだと思う。

 

あったかさとは、ずっとそこにあるものである。

 

でも、ない。という人だって、いるかもしれない。

 

ある女性歌手の歌である。

 

 ふりかえるひまもなく時は流れて

 帰りたい場所がまたひとつずつ消えてゆく

 すがりたいだれかを失うたびに

 だれかを守りたい私になるの

 

 わかれゆく季節を数えながら

 わかれゆく命をかぞえながら

 祈りながら 嘆きながら とうに愛を知っている

 忘れない言葉はだれでもひとつ

 たとえサヨナラでも 愛してる意味

 

 Remember 生まれたとき だれでも言われたはず

 耳をすまして思い出して 最初に聞いたWelcome

 

 Remember けれどもしも 思い出せないなら

 わたし いつでもあなたに言う

 生まれてくれて Welcome

 

あったかさとは、「とうに知っているもの」である。ときに「サヨナラ」でもあってしまうようなそれは、ずっとそこにいてくれるもの、である。でもどこかのボタンの掛け違いか、あるいは他の理由からか、あったかさなんて知らない、という言い分だってあるかもしれない。あったかさは、それを知りたいならば知ればいい、というものだ。あったかさはきっと、すぐそこにある。

 

始まりは、あったかさを知ってしまった後にやってくる。

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