2011年2月アーカイブ

マフィン

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自分が作る料理に関して、砂糖を使うのをやめてみることにしました。

 

やめると言っても嫌いになったわけじゃない。むしろ、妙な親近感を持っているくらいだ、砂糖に。

 

砂糖のいいところは、脳にダイレクトに届いて即効性がある、というところ。たとえばストレスを感じているときに砂糖を口にすると、内へ向けてカッチカチだった脳みそは外へ向かってフニャッととろける、ような気分になる。でも急激な変化は反動があって帳尻がつくものだから、一方には、脳の血管の目詰まりは砂糖が原因、という言い分もある。快楽は深ければ深い分だけ、苦痛を伴うリスクがある。そういう意味で砂糖と覚醒剤とは似ていると思う。酒もね。

 

似ていると思うと、砂糖はいいものだけど覚醒剤は悪、というような極端に違和感が出てくる。だからといって、砂糖も悪で覚せい剤も悪、という不健康嫌いに追従できるわけでもない。要するに、悪は悪なんだから排除してしまえ、という短絡が馴染めないのだ。

 

話がそれてます。

 

砂糖は、快楽を与えてくれる食材である。とともに、自己主張の強い食材でもある。料理は、砂糖が入ることによって一気にその個性で覆い尽くされる。これは逆に、その料理から砂糖を抜いた上で味を調えてみるとよくわかる。他の味が浮かび上がってきて、いかに砂糖がその料理に霞をかけていたのかがわかる。砂糖を抜くと、味に透明感と、輪郭が出てくる。

 

砂糖は、その昔はハレの日に口にするくらいの、希少な食材だった。ところが社会が裕福になって毎日がハレの日でも現実は破綻しない、となると、非日常は日常になる。砂糖の力は舌上だけのことだと高をくくっていたら大間違いである。わかりやすい快楽を与えてくれる砂糖は、手軽な陶酔をもたらす都合のよい食材として生活にも霞をかける。面倒なのは、霞が晴れたら生活はまとまりのあるものになるのかというと、そんなことはない。砂糖を抜いた料理が、その抜いた分は他の旨みで補う必要があるように、霞が晴れてしまったら、いかに自分に旨みがなかったかという残酷な現実だって待っているかもしれないのである。

 

料理は今、ファーストインパクトを求められるようになった。圧倒的に、口に入れてすぐに訪れる快楽がすべてであるかのように判断されるようになっている。口に入れて即判断された料理は、あまり噛まずに飲み込む、という口中消化試合的事態も招く。それでいいのかね、と感じるのは、よく噛まないと健康によくないから、という理由なんかではなくて、よく噛まないでモノのよさなんてわかるもんかい、という、訴えにも似た、叫びである。噛んでみて味わう、という労力を惜しむようになってきている背景には、少なからず砂糖の影響もあるように思う。

 

自分の料理は何度も噛んでそのよさがわかる料理の方がいいな。砂糖をやめてみようと決めたのはそうした理由からである。

 

料理教室の生徒で、砂糖を使わないでお菓子を作るのが上手い方がいる。その方が作ったマフィンは、砂糖を使わない。甘いものが好きな私は、砂糖を抜いてまでして甘いものを食べたいその根性ってどうなんだと思っていたから、そういうものに消極的だった。けれども食べてみてわかったのは、食べた後の重さがない。2個、3個と食べても、胸焼けをするなんてことがない。

 

ひとつ実験をしてみた。

 

この砂糖を使わないマフィン、具体的にはりんごと豆腐と菜種油と地粉とシナモンとベーキングパウダーが材料のマフィン、一体何回噛んだら味がしてくるか。まず5回噛んで、しない。10回噛んで、まだしない。そして12回噛んで、ようやく味がしてきた。それぞれの食材の味が、地味だけど、よくわかる。食べ終わってちゃんと、マフィンである。

 

このマフィンを作った方は一児の母親だが、この砂糖抜きのお菓子を家族は食べないのだという。一度砂糖に慣れてしまうと、味覚がまだ敏感なはずの子供も砂糖のインパクトがないと納得しなくなるのだろう。ご主人などは、「こんなのを食べさせられて腹立たしくすらある」と言ったそうだ。もちろんほんとに腹が立っていたわけではないのだろうが、そのくらいにお菓子というのは甘さたっぷりでなくちゃいけないことになっているわけである。

 

もうこうなるとひょっとしたら、当世は腹立たしいやつが一番まとも、ということもあるのかもしれないぞ。

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