2012年4月アーカイブ

鯖(さば)がうまいのは秋が定番だが、いやいやどうして寒の鯖もうまい。

 

寒い冬。寒のつく魚で真っ先に思いつくのは鰤(ぶり)。「氷見の寒鰤です」、なんて、ちょっと気の利いた料理屋に行けば一言つけて出してくれる。寒鰤寒鯔寒鰈(かんぶりかんぼらかんがれい)という慣用句もある。今は昔の言葉かもしれない。さしずめ今なら寒鰤、寒河豚(ふぐ)、寒鮟鱇(あんこう)か。鱈(たら)も忘れちゃいけない。魚へんに雪だもんな。鰆(さわら)も冬がうまい。魚に春だが冬がうまい。

 

寒の味覚三役、どうするか。この話題で一杯やれそうである。

 

先日都内できき酒会をした。人形町の呉服屋の座敷。着物姿もちらほら見える。この日は7種類の酒に7種類の料理を合わせるという趣向だった。7つの酒肴相まって大虎となる、わけでもないが、酒が入って老若男女、実にいい顔をしていた。

 

料理の一つに、鯖の照り煮を出した。脂ののった寒の鯖を大根と一緒に煮る。煮汁はしっかり詰めてこってりと。弱火でコトコト中まで味を染み込ませるというより、強火でガッと火を入れて外側に煮汁をまとわせるイメージ。仕上げに粉山椒をパラパラ。

 

きき酒は酒が主役だからそれに合わせた料理である。酒は広島の竹鶴。純米である。

 

この酒は酸味が特徴の個性派。酒瓶には三位一体ならぬ、酸味一体と書いてある。わざわざ書いてあるのだからそこにこの酒の力点があるに違いない。まさかただのダジャレ好きな酒蔵、というわけでもなかろう。でも嫌いじゃないんだろうな。

 

見た目からして茶色い酒。香りは甘く香ばしい。紹興酒に近い。ヤクルトみたいな香りもする。乳酸菌が効いている感じだ。ひとまず飲んでみる。見た目と香りのインパクトからするときれいな酒質。甘味が少なく感じる。香りはすごい。飲んでますます紹興酒のようでもある。それにしても独特。

 

すべからく作り手というのは、どこかに着地点をイメージして作っているはず。ましてや酒瓶に「酸味一体」だと表明するくらいの酒。一体この酒、どこにたどり着こうとしてるのか。ひやでよくわからないから燗にしてみた。ひと肌。367℃。いまいち。ぬる燗。40℃。もうちょい。熱めにした方がよさそう。一回60℃まで温めて、それを50℃くらいまで冷ましてみたら飲みごろを発見。熱燗。50℃でようやく、着地。

 

酒は一回温度を上げて冷ますと丸くなる。角が取れる。甘味の少ない酒。ボリュームがありすぎてくどい酒にはいい。ただ酒自体に力がないとへたれる。しっかり時間をかけて発酵、熟成させて作り込んだ酒でないとダメ。

 

それにしても面白い酒である。一般に共通するおいしさ、わかりやすいウマサなんてこれっぽっちも求めていない。そこがいい。どんな人が作っているのか。会ってみたくなった。

 

それで、料理である。まずこういう酒は、甘辛な、複雑な味付けの肉料理と相性がいいことが多い。多い、というのは、合わせてみなけりゃわからないから。たとえば鶏の旨煮とか、酢豚とか、肉を醤油と砂糖の入った調味料で煮込んだものは合いそう。けれども今回は7種の料理のうち他の料理ですでに肉を使っていたため、ここでは肉を避けて魚を使いたい。

 

さてと考え、最初に考えたのは鰤大根。寒鰤大根。これをこってりめで煮たらどうかと。合うと思いますね。この酒には白身より、鰤や秋刀魚なんかの青魚の持つ複雑な旨みが合うと思った。

 

そんなとき、たまたま自分の晩酌、酒の肴用に買った特売の鯖を料理してみたら、いやいやそれが旨かった。鰤のあの大味なところもなく、臭みもない。しかも脂がのっている。見直しましたね、鯖を。

 

それでこの鯖を半身はしめて、半身は照り煮にした。しめ鯖もなかなか乙なもの。乙ではあってもこの酒には合わない。鯖が負ける。案外しめ鯖は、生酒、しぼりたて、あらばしりなんていうフレッシュ系と相性がいい。それで照り煮に合わせてみて、これがピタリときた、というわけ。

 

鯖を読む。という言葉がある。これは、冷蔵技術のない時代に鯖を早く売りさばこうと急いで数を数えるため数が合わないことが多い、というところからきたという慣用句。いい加減な数値、ということ。つまりそのくらいに痛みが早いのが鯖でもある。けれども現代の冷蔵管理技術をもってすればたとえ内陸部であってもこんなにおいしく、かつ特売で鯖を手に入れることができる。

 

リアルタイムが可能になってきているからこそわかる、寒鯖のおいしさ。あるいはそんなことが起こる一方で、季節感、生命感のない商品も多い。ともすれば旬と言うものを、もう一度捉え直して再考する時が来ているのではないか、、、なんてことは、言わない。言わないんだ。言わないが、それが楽しい作業だということは、言う。

 

おいしいものは生命感にあふれている。それが、旬、ということだろう。それを教科書通りじゃなく、自分の五感で感じとれた時はうれしいものだ。あらゆる食物の食べ時暦、旬の食カレンダーは、本来自分の五感を頼りに作るべきものだろう。

 

もはや、秋鯖は嫁に食わすな、なんという了見の狭いことを言っている場合ではない。鯖は寒が旨いのである。

 

そしてまた、一口飲んでうまくないと言ってほったらかされているどこかの酒も、燗が旨いのかもしれないのである。

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