2010年1月アーカイブ

第六回「一二三食堂」

ヒレソースカツ丼.JPG高崎市内に、老舗食堂数あれど、この店ほど店内に若い活気が溢れている老舗食堂はないだろう。
その店の名は、「一二三食堂」、である。
高崎市街地、南銀座通りを城址の方へ一本、と言っても分かりづらい。
住所を記すと、高崎市宮元町に在る。
ともかく、地元の人間の人なら、「南銀座通りから一本、城址側の裏道」、と言ったほうが通じる。

昭和3年から続く老舗食堂で、なんて私があえて説明するまでも無く、
過去、雑誌や新聞に掲載された事がある有名店。
ネット検索すれば、必要な情報には事欠かないだろう。

その佇まいは、裏通りに在る懐古的な一軒食堂。
しかし、その純和風の伝統的な外観から想像し得る客層に反し、若いカップルや
女性の独り客が、ひっきり無しに暖簾をくぐって行く。
店内へ入ると、決して広くは無い。
30席も入れば、満席になってしまうだろう。
年季の染み込んだ木机、骨董品と思しき鏡など、
昭和情緒を感じさせる設えが、小さな店内の雰囲気を演出している。

私は、店内、片隅の席へ座り、先程注文した、ソースカツ丼を待っていた。
待っている間、机の脇に置いてある、「おもいでつづり」なる来店記録帳を手に取り、頁を捲る。
書いてある文章のどれも、この食堂への愛着が行間から滲み出ている。
一寸、驚いたのが、遠方からの来店者が多い事だ。
「今日は千葉県から来ました」
とか
「草津へ行く途中に寄った、茨城県民です」
とか、国道沿いの有名店ではなく、高崎の、それも市街地の路地裏に在る店へ寄
るのだ。

なんだか、私も高崎市民のはしくれとして、「ありがとう」と心の中で礼を述べ
ておく。


そうこうしている内に、ソースカツ丼が私の前へ運ばれて来た。
いささか奮発して、「ヒレ」ソースカツ丼を注文してみた。
丼から立ち上る湯気の向こうには、なんと、丼の上、つまりご飯をステージに見
立て、 ダンスでも踊っているかの如くに、背を伸ばしているカツが3枚。
肉厚なトンカツが、ご飯の上で立っているのだ。
勿論、ソースカツが美味い。
ソースカツ派の一員として、玉子とじ派との全面対決をも辞さない程、美味い。
ソースカツ丼と言えど定食になっていて、一汁三菜が付いてくる。
お徳なのだ。

休日の昼下がり、にも拘らず、入れ替わり立ち代り、入ってくる若い男女の客。
しかも、その大半が、名物のソースカツ丼をワシワシと平らげて帰るので、恐れ
入る。

と同時に、「気付いているんだ」と言う安心感を持った。
チェーン店の即席料理では得られないもの。
それに気付く、いや、それを気付かせてあげる店ってのが、名店なのかも知れな
い。
高崎市の街中に、そういう店が、確かに今も暖簾を揺らして
いる。


筆者 抜井諒一

 

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